登山で山小屋泊・テント泊をしたとき、好きなお酒で祝杯をあげたいと考えている人は多いと思います。
ただ、気を付けたいのが標高が高い場所&就寝時のアルコール分解速度。これを理解して適量に抑えないと翌日の山行が二日酔い状態となり大変危険です。
JAFの季刊発行誌「JAFMATE」1月号に「酒気残りのメカニズム」という興味深い記事がありました。
JAFの記事は下界での話ですが、記事のデータを参考に「山での適量」を考えたいと思います。
目次
山頂など標高の高い場所でお酒が回りやすい理由
一般的に、山の上でビールなどを飲むと酔いが回りやすくて危険だと言われています。
その理由について、航空会社のANA(全日空)はこのように解説しています。
国際線の飛行機はだいたい高度1万メートル付近を飛行しています。気圧が低いため、機内は与圧装置で0.8気圧程度になるよう調整しています。これは富士山の5合目程度(標高2400m前後)の気圧に相当。(中略)
諸説ありますが、機内で酔いやすいのは体内の酸素が減るため代謝が悪くなり、アルコール分解が遅れるためと、気圧が低いために末梢血管が拡張し、血液循環が促進されてアルコールがまわりやすくなるためと言われています。なんと機内では地上の2倍程度酔いやすいという報告も。
5時間で分解できる酒量の目安について
JAFMATEの記事によると、日本アルコール関連問題学会では1時間に分解できるアルコール量は4gと規定されているそうです。
個人差はありますが、5時間で分解できる酒量の目安は下記の通りです。
・ビール500ml(中ジョッキ1杯、アルコール度数5%)
・ワイン200ml(小グラス2杯、アルコール度数12%)
・日本酒180ml(1合、アルコール度数12%)
・ウイスキー60ml(ダブル、43%)
・チューハイ350ml(1缶、アルコール度数7%)
注意! 睡眠中はアルコール分解が遅くなります
そして、さらに気を付けたいのが就寝前の寝酒。睡眠中はアルコール分解が遅くなるというデータがあります。
久里浜医療センターは札幌医科大学との共同研究で、飲酒後に睡眠をとると、アルコールの分解が遅れることを確認している。20代の男女計24人を対象に、体重1kg当たり0.75gのアルコール(体重60kgの人でアルコール45g=ビール約1Lに相当)を摂取し、4時間眠ったグループと4時間眠らずにいたグループの呼気中のアルコール濃度を調べたところ、眠ったグループの呼気中のアルコール濃度は眠らずにいたグループの約2倍となった。
睡眠中は血液循環が下がって、肝臓でのアルコール分解処理が進まないそうです。
分解速度が半分に下がっていると仮定すると、寝る直前にお酒を飲むと睡眠5時間でアルコールを分解できる量はこのようになります。
・ビール250ml(250ml缶1本、アルコール度数5%)
・ワイン100ml(小グラス1杯、アルコール度数12%)
・日本酒90ml(0.5合、アルコール度数12%)
・ウイスキー30ml(シングル1杯、43%)
・チューハイ175ml(0.5缶、アルコール度数7%)
アルコールの分解を早める方法は?
それでも、美味しいお酒をグイグイ飲みたい。満点の星々を眺めながらお酒を飲みたい。どうにかしてアルコールの分解を早める方法は無いか。
そういう人向けの情報もJAFMATEの記事に載っていました。コーナー名は「間違いだらけの酔い覚まし方法」。
・水を大量に飲む → 対して効果がない
・汗をたくさんかく → 対して効果がない
・ウコンやしじみ汁などを摂る → 二日酔いの改善効果を証明(実証)する研究は少ない
汗をたくさんかいたり、水をたくさん飲んだりすると、アルコールが速くぬけると勘違いしている人もいます。確かに、わずかな量のアルコールは呼気(0.7%)、汗(0.1%)、尿(0.3~4%)からも排泄されますが、代謝のほとんどは肝臓で行われます。
「酔い覚ましのための水」は、アルコールの吸収速度を抑えることはできても「分解に役立つ」というエビデンスは無いようです。
状況別・登山での飲酒許容量の目安
これまでのデータを参考に、実際の山での具体例とお酒の適量を考えてみました。
ケース①「山小屋での夕食の飲酒」の適量
山小屋の夕食が18時として、21時に就寝、翌朝4時起きの場合。起床までにアルコールが分解できるおおよその推定目安量は下記の通りです。
ビール350ml(350ml缶1本)、ワイン140ml(小グラス1杯少々)、日本酒120ml(0.7合)、ウイスキー40ml(シングル30ml少々)
ケース②「テント泊で夜空を眺めながらの寝酒」の適量
山の上のテント場。夜になり、20時頃から星を眺めながらお酒を飲んで21時に就寝、翌朝4時起きの場合。翌朝までにアルコールが分解できるおおよその推定目安量は下記の通り。
ビール160ml(135ml缶1本)、ワイン60ml(小グラス3分の2杯)、日本酒60ml(0.3合)、ウイスキー/ブランデー/ラム酒20ml(シングルの3分の2杯)
※ブランデーとラム酒は度数40を想定しています。
酒気残り(二日酔い)で影響される登山の危険性
JAFMATEの「アルコールの血中濃度と運転への影響」によると、アルコールが残っていると集中力の低下、注意力の低下、反応速度の低下が発生するとのことです。
山の事例で考えると、「地図の確認不足や看板・目印の見落としによる道迷い」「体勢が崩れたときに瞬時に立て直せず転倒して捻挫」「岩場での足の踏み外し滑落」「不注意による落石の発生」などが挙げられます。
危険な山の事故を誘発しないためにも、過度の飲酒は避けた方が良いと思います。
【まとめ】山でお酒を飲むときは、たしなむ程度に
・標高の高いところではアルコールの分解速度が遅くなり、アルコールの吸収が早くなる。
・睡眠中はアルコールの分解速度が2分の1くらいに遅くなる。
・「標高の高いところでの寝酒」はかなり少なく飲まないと翌朝に響く。
・水をたくさん飲んでトイレに行ってもアルコールの分解速度自体は変わらない。
・酒気残りを完全に無くせるのは「時間」だけ。
・アルコールが残っている状態は山の事故を誘発しやすい。
・山小屋やテント泊目的地に早く到着して日中からなら飲んでも良さそう(できれば食事をしながらゆっくり飲む)
目的地に到着した達成感や高揚感、ご褒美のような山上の絶景。
思わず盛大に祝杯をあげたくなるとは思いますが、翌日の山行が早朝発なら夕方以降の飲酒は心を鬼にして節制するのが良いかと思います。
なお、飲酒した翌朝に「アルコールが抜けた」と感じても、実は勘違いで自覚症状が薄れているだけということもあるようです。
飲み過ぎには十分注意して、山の酒をお楽しみ頂ければと思います。
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