2月7日(日)に行われた「バーチャルアイスキャンディフェスティバル2021」の感想レポート、後半です。

わたしたちの楽しい雪山歩き
スピーカーは、モデルでフィールドナビゲーターの仲川希良氏とランドネ編集長&KUKKA代表の佐藤泰那氏。
仲川さんは11年前のランドネのファッション撮影から山を始めたそうで、佐藤さんが誌面のモデルを探していたときに仲川さんを見て「この人絶対アウトドアウェア似合う!」と思って山の世界に引き入れたとのこと。
おふたりは10年近い付き合いでプライベート登山もする仲。これまで一緒に登った海外登山・国内登山での出来事や感じたことを、女性的な繊細な感性で表現されていました。

仲川希良さんは雪山デビューをお手伝いするサイトを手掛けています。雪山初心者にオススメのコース、雪山装備、雪山のリスクなどを紹介されています。
■仲川希良の「雪山 一歩、一歩。」
http://www.kirayukiyama.jp/
ランドネ 2021年 3月号

終盤に、赤岳鉱泉の柳沢氏も参加してトーク。アイスキャンディ―に初めて挑戦する人へのアドバイスとして、装備レンタル&ビレイありの「初心者体験会」への参加を推奨されていました。毎年11月頃に予約受付開始、受付初日に8割くらい埋まるとのことです。
■赤岳鉱泉 2021アイスキャンディ初心者体験会
https://userweb.alles.or.jp/akadake/i/taiken.html
※ 参加条件あり。体験会の前日に赤岳鉱泉へ宿泊、過去にアイスクライミング経験が無く、初心者体験会に初参加の人限定。
吉沢充世氏によるウィルダネス・ファーストエイド講習
ウィルダネスファーストエイド講習のスピーカーは、ウィルダネスメディカル アソシエイツジャパン(WMAJ)のインストラクター・吉沢充世氏です。
ウィルダネスファーストエイド(野外災害救急法)とは、救急車や救助隊・ヘリがすぐに来れない時に役立つ救急法のこと。人体の構造に基づいた判断を行い、事故現場の環境影響を考慮して処置をするクリティカルシンキング(分析的思考)を重要視する。沖田氏もこの講習を受講して現場で活用しているとのことです。
人は何故死ぬのか、それは「酸素の流れが途絶えたから」と考える。酸素の流れを止めないためにどうするかを考えて行動する。どういうケースで通報が必要なのか――。
吉沢さんの話しぶりは表情豊かで、身振り手振りや心の声のようなセリフ・比喩表現もおりまぜ、常に視聴者へ語り掛けてくる。難しくなりがちな内容でもするすると頭に入ってきます。

WMAJのプロフィールを見てみると「6年間小学校教諭として公立小学校に勤務」とありました。だからこんなにわかりやすいのか、と理解。「教育的な観点を常に持ち続けるインストラクターであり続けたい」という想いをもつ吉沢さんの野外活動教育キャンプ、子どもを通わせたいなと思いました。
■ウィルダネスメディカル アソシエイツジャパン(WMAJ)
https://www.wildmed.jp/
この講座では学びになった点がたくさんありました。私がとくに憶えておきたいと思った点を箇条書きすると、
・救急要請の要不要について。体に外から大きな力が加わったとき、最初に確認するのは「脊椎損傷」がないかどうか。損傷しているようなら、脊椎を動かさないようにしてすぐに救急要請をする。(搬送や身体の固定はしない、楽に待てる姿勢で出来るだけ動かさない)
・体に衝撃が加わったときに内出血しているかどうかは、「酸素低下による脈拍と呼吸数の増加」「血液の減少で皮膚が白くなる」という兆候で判断可能。内出血をするとしばらくは意識レベルがキープできているが、出血性ショックでガクッと悪くなる。兆候があればすぐに救急要請。
・頭に強い衝撃があったときに「意識を失う(真っ暗になる、星が飛ぶも含む)」「記憶喪失(部分的なものを含む)」があれば外傷性脳損傷の可能性があるので要注意。脳が腫れていくと取り返しのつかない状態になるのですぐに救急要請。

このほか、低体温症・低血糖の判断や対処、意識レベルに異常をきたす原因などが話されましたが、とにかく理解しやすい。ウィルダネスファーストエイドを普及するYouTuberになって頂ければなと思いました。
なお、WMAJのホームページには、傷病者が発生したときに誰でも状況判断と適した通報・情報収集ができるように設計された「WMA緊急判断・通報シート」があります。フリーダウンロードOKです。
■WMAJ 各種ダウンロードページ
https://www.wmajapan.com/download/
ウィルダネスファーストエイドのベーシック講習の費用は約4万円。現在、授業のほとんどはオンラインになっていますが、最終日の実技の開催場所は関東(神奈川・群馬・静岡)のみとなっています。
■WMAJ コーススケジュール
https://www.wmajapan.com/schedule/
中島佳範氏による「雪山テント泊」
続いては、株式会社ヘリテイジの中島佳範氏による雪山テント泊講座。
スタジオにエスパーステントを張って冬テントの解説が行われました。
ESPACE(エスパース)
エスパース・マキシムナノ1-2人用
【とくに学びになったこと】
・地面の整地にはスコップなどを使用し、床面の雪はしっかり踏み固める。不十分だとテント内の熱で床面がでこぼこになる。
・テントポールの中に雪が入ると凍ってトラブルになる。組み立てるときは置き場所などの取り扱いには注意する。
・通常のペグはすぐに抜けるため、スノーシートに雪を詰めて地面に埋めたり、十字に組んだ竹ペグを使ったり(ペグを十字に組むのもあり)、ピッケルなどで固定する。
・固定ロープの自在パーツは上部(テント側)に寄せる、ペグ側だと雪に埋もれることがある。
・入り口は「吹き流し」という筒型状になっていれば中に雪が入りにくい。冬山では「中の物を濡らさない」ことが重要なので吹き流し付きがおすすめ。
・通気性を持たせて酸素不足を防ぐため、フライは使わず防水コーティングは底部のみ。(冬は雨が雪になるため。撥水加工はしている)
・夏用テントだと積雪時にフライシートとテント本体の間が雪で埋もれると、通気性が損なわれ酸欠になる恐れがある。
・入り口部分を掘って土間のようにすると登山靴の脱ぎ履きなどが楽。
・とにかく雪はテント内に持ち込まない。中が濡れたらタオルなどで拭きとる。
■エスパーステントの特徴について
・エスパースは日本の冬山から進化してきたので日本の山で使いやすい。
・ポールスリーブは吊り下げ式ではなくスリーブ式なので強風に強い。また、ガイラインもポールに引っかかるように通っているので強風で外れにくい
・寒い中すぐに立てられる。
・縫製方法も強度を重視。
・冬にテントが寒さで固くなってもポール受け穴が2段階になっているので設営しやすい。

■ヘリテイジ オンラインショップ・エスパーステント
https://heritage.co.jp/Espace/Espace_top.html
七丈小屋の花谷泰広さんとZOOM生中継!
八ヶ岳山麓のスタジオと、南アルプス甲斐駒ヶ岳の七丈小屋とZoomをつないでの生中継。
スピーカーは、七丈小屋の指定管理人・花谷泰広氏。聞き手は赤岳鉱泉に出向中の槍平小屋・槍ヶ岳山荘の沖田拓未氏、赤岳鉱泉・行者小屋4代目当主の柳沢太貴氏。
花谷氏は20代からネパール・ペルーなど多くの海外登山に挑戦し、2012年にネパールのキャシャール南ピラー(6770m)初登頂でピオレドール賞を受賞。山岳ガイドとしてオーダーメイドガイド「First Ascent」を主宰し、若手登山家養成プロジェクト「ヒマラヤキャンプ」も手掛けています。甲斐駒ヶ岳・七丈小屋の管理運営は2017年から。好物はわらびもちと豆腐だそうです。
【トーク内容で印象的だったこと】
・七丈小屋の周りは積雪1m、外気温マイナス5.1℃。今季一番冷え込んだときでマイナス20℃。今年は本来の冬らしい状況。なお、室内は18.8℃であたたかい。
・七丈小屋の管理運営を始めたきっかけは、前の管理人が後任を探していたときに「やったら面白そう」と思ったから。
・トイレは外で、3~40m登山道を歩く。冬は転倒に注意。
・黒戸尾根の魅力のひとつは里山文化・山岳信仰・アルピニズムの3要素があり、色んな人が登りに来ること。日本三大急登で、ふもとからの標高差は2200m。七丈小屋は標高1600m地点にあり、コースタイムは約6時間。冬の黒戸尾根に来る前に、体力をつける・見定めるために冬の八ヶ岳で練習しておいてほしい。
・この冬はコロナで人が少なくてトレースが無くなることが多い。山のレベルが1段上がっている。

■甲斐駒ヶ岳 七丈小屋
https://www.kaikoma.info/
■オーダーメイドガイド「First Ascent」
https://first-ascent.co.jp/
■若手登山家養成プロジェクト「ヒマラヤキャンプ」
https://www.facebook.com/himalayacamp.jp/
近藤謙司・佐々木大輔がご案内~世界の山々
チームKOI動画の後編。スピーカーは国際山岳ガイド ビッグマウンテンスキーヤーの佐々木大輔氏、聞き手はライターの柏澄子氏。
北米大陸最高峰・デナリ(6190m)の南壁カシンリッジについてのトーク。カシンリッジはデナリの最難関ルートで、最大斜度55度・標高差約3000m。佐々木氏は2017年6月にスキーでの滑降に成功しています。

【聞いていて印象的だったことのメモ】
・撮影で50日間山にいたので荷物が通常の倍。荷揚げはソリに40kg・背中に20kg担いで2往復した。
・4200mのメディカルキャンプでは風が強いのでテント周りに雪壁を作っている。天気が悪いと1週間はテントに閉じ込められる。シーズン中は100人くらいいる。
・20日間かけて一度ノーマルルートで山頂に登って高度順応、2300m地点に戻ってカシンリッジルートから登った。
・雪崩の末端がなぜか暑かった。雪煙(せつえん)なのに体が濡れる。標高差2000mを雪が落ちてくると摩擦熱で溶けているのではないか。
・核心部分はほぼ垂直の7~8mクライミング。15kgの重い荷物&スキー板を背負って登る&ピッケルがしっかり振れない。難易度の高いクライミングだった。
・クライミング中、プロテクションを取るためのクラック部分の雪かきを何度も行い、摩擦で手袋が1つダメになった。
・天気予報はヤマテンを利用。衛星携帯電話で連絡して情報を得た。
・メンバーの平出氏は撮影のための天気待ち停滞がかなりストレスだった。登山者なので危険地帯は一刻も早く登って降りたいようだった。
・メンバー全員が疲労してストレスが高まっていた最終キャンプで新井場氏がまるごとのスルメを取り出して一気に場が和んだ。節約をしていたガスバーナーであぶり、居酒屋のような香りが漂って精神的にプラスになった。
・気温マイナス34℃、風速15m、体感温度はマイナス60℃くらい。恐怖感をおぼえる寒さだった。
・足元の防寒対策は、スキーブーツにバッテリーヒーターをつけてオーバーシューズを履いていた。それでも帰国後しばらくは指先の感覚がなかった。
・クライミングの装備・ギアは、アイススクリュー8本(13cm6本、18cm2本)、ジャパニーズクーロワールの2~300mをアイススクリュー8本で通過。カム5本(リンクカム含む)、ナッツ5本、スノーバー5本。ロープは60mを4本(シングル規格8.7mm×1、ダブル8.1mm×3本)。ギアは全部使用。数はちょうどだった。
・世界的に見ても4000mを一気に滑ることができる場所はなかなかない。
デナリ 大滑降 完全版 [Blu-ray]
佐々木大輔 (出演)

抽選会&エンディング
イベント開催中に「#ICFES2021」とツイートすればプレゼントが当たる抽選会に参加する権利が発生。
視聴しながら何度かツイートしたら、見事当選しました。ぺツルの人気モデル・アクティックコアです。
PETZL(ペツル)
E099GA アクティック コア

フェスの最後に赤岳鉱泉の柳沢氏からご挨拶。イベントに参加頂いた人・協力頂いたメンバーやスタッフ・山小屋関係者への感謝の言葉が述べられました。
来年は実際にイベントを開催する方向で検討されているとのことなので、今回のようなオンライン要素は無くなる可能性があります。私としては山小屋初のオンラインイベントが1回で終わるのはもったいないように思うので、全国の登山愛好家への情報発信のためにもイベントの様子や講座のライブ中継はできる範囲で実施して頂けたらなと思います。

■追記
本日をもちまして、#icfes2021 の後夜祭、"毎日駅前鉱泉ステーキ"企画、終了です!
お付き合いいただき、ありがとうございました!
皆さん、赤岳鉱泉にステーキ食べに来てね😋#icfes2021はまだ終わらない pic.twitter.com/BJi0nuc86p
— icecandyfestival2021 (@icfes2021) February 12, 2021
icecandyfestival2021(@icfes2021)の後夜祭ツイートで続々とステーキ動画が投下。めちゃくちゃ食欲を刺激されました。赤岳鉱泉の名物ステーキ、食べてみたいです。
イベントを楽しませて頂いたうえにプレゼントも頂いたので、諸々が落ち着いたら泊まりに行きたいと思います。
■赤岳鉱泉・行者小屋 公式ホームページ
https://userweb.alles.or.jp/akadake/