キャンプやバーベキューなど野外で食べるご飯は、家で食べるご飯より旨い。広い景色を眺めながら飲む登山でのコーヒーも旨い。
アウトドアでの食事を人は何故美味しいと感じるのか。
長いあいだ不思議に思っていましたが、 先日スノーピークの店頭で配られている冊子を読んでその原因のひとつがわかりました。
「脳はキャンプをしたがっている?」という、脳科学研究者の池谷祐二(いけがや ゆうじ)薬学博士(東京大学・大学院薬学系研究科 教授)のコラムにはこのように書かれていました。
・「快感の報酬」で考えると、安全な巣(屋内)で食べるより未知で危険な屋外で食べると快感が大きくなる。
・快感の報酬は差分に反応する。苦痛で辛い山を登る行程を経て、安全に周りを見渡せる山頂に着いてのご飯は大きな差分の報酬になる。
引用:「スノーピーク 子供と親の読本」より
つまり、 安心できる家以外の非日常の場所で食べると、おいしく感じる。 しんどい思いをして料理に手間がかかった分、おいしく感じる。 という事。
レストランなどで外食するのが美味しいのはもちろん、飯盒で米を炊くのに手間がかかったカレーが旨いのも、汗を流して山を登ったあとのご飯が美味しいのも、脳科学的に「快感の報酬の差分」の影響を受けているからと考えられます。
となると、コーヒー登山ではこういった山コーヒーが美味しくなります。
「人里離れた初めて訪れる山奥にて、生豆から焙煎して、コーヒーミルで挽いて、枯れ木を集めてお湯を沸かして、パーコレーターで火加減を調節しながら時間をかけて淹れるコーヒー」
これは私が実際に「山と珈琲 八経ヶ岳編」でやった山コーヒーなのですが、コーヒーを飲むまでに1時間くらいかかったので確かに「コーヒー以上の味がするコーヒー」になりました。
アウトドアで美味しいご飯を食べようと思ったら、「人間の文明」から出来るだけ遠ざかった場所へ。人工物が視界に無く、携帯の電波も届かない。「日常」から遠ざかるほど美味しくなります。
そして、いつもより手間と時間をかけて料理を楽しむ。 自然味溢れるちょっと不便なキャンプ場での調理や、お湯を入れるだけのインスタントコーヒーではなくコーヒーミルでゴリゴリと挽いてのコーヒー。
すべてが快適・お手軽になってしまった現代、「感動する感覚」が麻痺している人が増えてきているように感じます。
人間の祖先がやっていた不便な生活の方が、美味しさはもちろん、「生きる喜び」を強く感じるように出来ているのではないでしょうか。
人生が豊かになる鍵は、アウトドアが握っているのかもしれません。