
恩田陸さんの短編小説「珈琲怪談」。
4人の男性が喫茶店を次々と巡りながら、持ち寄った怪談話を披露しあうという作品です。

怪談は実際にありそうな話で、リアルな不気味さがすごく面白いです。
小説は全6話(6章)で、各章ごとに喫茶店が何店舗か登場。具体的な店名は本に書かれてはいませんでしたが調べてみると実在するカフェがモデルとなっていました。
作中に出てくる喫茶店はどれも趣きのある名店ばかり。聖地巡礼用に、喫茶店の場所特定と、登場人物が話す内容で気になった点を調べてみました。
まずは珈琲怪談Ⅰ(第1章)の特定です。
目次
【1軒目】前田珈琲 明倫店
「廃校になった学校にあるカフェ」で、「正面入り口の上に目をやると、船のように三つ並んだ丸い窓が目に入る」建物といえば、京都芸術センターの「前田珈琲 明倫店」です。

「窓際の丸テーブル」もありますね。
前田珈琲さんは創業1971年の老舗喫茶店。明倫店は1993年に閉校した明倫小学校が京都芸術センターとして生まれ変わったときに入店。コーヒーはこだわりの自家焙煎で、フードや菓子はすべて手作り。
尾上が食べたフレンチトーストはこちらです。

「バナナとチョコレートアイスクリームが入ったココット皿」はこれか…!
水島が選んだ「牛若丸」と多聞が選んだ「弁慶」は通販でも購入可能。
牛若丸は前田珈琲のテイスターがその時々の最高品質のコーヒー豆を厳選したレギュラー珈琲で、弁慶はエチオピアイルガチェフェのスペシャルティなコーヒーです。
前田珈琲
4種「ドリップパック」飲み比べセット
※ なお、現在はアートな内装にリニューアルされています。
気になった部分を深掘りしてみた①
●「ヒドゥン」について
『ヒドゥン』 (The Hidden) は、1987年にアメリカ合衆国で公開されたアクションホラーSF映画。凶悪なエイリアンを追う謎のFBl捜査官とロサンゼルス市警の刑事の姿を描く。ヒドゥンは「隠されたもの」という意味。
●第1章の時期について
京都の烏丸あたりで山鉾を立てる準備(鉾建て・山建て)が始まるのは例年7月10日ごろ。京都は盆地なので、確かに「むっとする暑さ」になります。
●多聞はなぜ山鉾を見て「ヒドゥン」の映画を思い出したのか
山鉾の幾何学的な縄の模様は、映画に登場する蜘蛛型エイリアンに似ているといえば似ています。
●「嫁入りする花嫁の道をとおせんぼすると仲人さんがポチ袋に入ったご祝儀をくれる風習」について
引用:加賀でかがやく
この風習があるのは石川県の能登でした。花嫁が嫁ぎ先へ向かう「花嫁道中」のさいに、地域の人々が道を縄で塞いで仲人がご祝儀を渡して通してもらうというもの。

「結婚生活での困難を乗り越える」「地域社会への受け入れる」意味が込められているそうで、子供には5円玉を入れた祝儀袋で大人は饅頭やお酒などが用意されることが多いそうです。
●「久しぶりに帰省した高校時代の仲間が故郷の町のパブを一晩でぜんぶ回る」という内容の映画について
映画は 『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(原題:The World's End 2013年放映/監督:エドガー・ライト)と思われます。高校時代に伝説のパブ巡り「ゴールデン・マイル」に挑戦して失敗した5人の男たちが20年ぶりに故郷の町に集結して再挑戦するが、町は以前と何かが違って、やがて奇妙な出来事に巻き込まれていく…というSF映画。
●中庭を見て連想した映画「反撥」について
映画『反撥(はんぱつ)(Repulsion)』は1965年に公開された心理的ホラーの傑作。1960年代のロンドンを舞台に、男性恐怖症の女の精神が徐々におかしくなっていく話。第15回ベルリン国際映画祭で銀熊賞審査員グランプリを受賞。

amazonプライムで見れます。「壁から手がいっぱい出てくるシーン」は1時間17分くらいのところにありました。
【2軒目】喫茶マドラグ
「二条城近くのこぢんまりした喫茶店」で、「入り口にそら豆型のテーブルがある」という店で該当するのは「喫茶マドラグ」です。
2011年にオープンした喫茶店で、店名の「la madrague」は店主の妻が好きだったフランスの女優ブリジット・バルドーが所有していた南フランスの別荘の名前。マドラグは「サン・トロペ」という港町の古い名称で、ブリジットは都会暮らしに疲れたときに「マドラグへ帰りたい」と言っており、そんな風に思ってもらえる店にしたいという思いを込めて名付けられたそうです。

作中に登場した卵サンド(コロナサンド)。めちゃくちゃ分厚い…! 食べてみたい…!
気になった部分を深掘りしてみた②
●マドラグの店内で流れていた、ミシェル・ルグランの「ロシュフォールの恋人たち」
https://youtu.be/TyKMhVdFvZI?si=Y_oirq2BmhoTwa34&t=29

あ~これ聞いたことがある!という曲でした。
●熊が三角のターコイズを背負っているズニ族のお守り石
引用:ebay「Native Zuni Carved Pipestone Stone Bear Fetish」
引用:ebay「Native American Zuni Carved Stone Bear Fetish」
ズニ族にとって熊は西部の守護動物で、このフェティッシュ(呪物/お守り)には「強さ」「自分を見つめる力」「癒し」などが結び付けられているそうです。

欲しい…けど呪いが怖い…。
●白いハナカマキリ
花の妖精とも呼ばれ、蘭の花に擬態するので「ランカマキリ」と呼ばれることも。日本には生息しておらず、マレーシアやインドネシアなどの東南アジアに広く分布。昆虫ショップでは幼虫1200円~親4000円くらいで販売されています。
●「あの事件があった家」
引用:成城署 世田谷事件

家の場所はグーグルマップでここです。(現在は取り壊し済み)
【3軒目】Cafe Bibliotic Hello!(カフェ ビブリオティック ハロー)
店の前に大きな棕櫚(シュロ)の木があるブックカフェで、隣がパン屋。二条柳馬場の「カフェ ビブリオティック ハロー」がモデルだと思われます。

入り口近くのソファ席、確かに地球儀があります。
築100年以上の町家を半年がかりで改装したという古民家カフェで、図書室のようなカフェを目指して名付けられたそうです。なお隣のパン屋(カフェビブリオティックハロー!ザ・ベーカリー)は2021年頃に閉店しています。
気になった部分を深掘りしてみた③
●四国T県の駅前のビジネスホテル
徳島駅前にはいくつかホテルがあり、14階が客室のホテルは「JRホテルクレメント徳島」のみ。
●カール・ラガーフェルドのクッション
カール・ラガーフェルドはシャネル(CHANEL)やフェンディ(FENDI)、クロエ(Chloé)などのデザイナーを務めたファッション業界のモードの帝王。ドキュメンタリー映画は2013年公開の『ファッションを創る男 -カール・ラガーフェルド-』で、クッションは「乗り物に乗るとお腹が冷えるから」使い、機関車を刺繍してくれたのは乳母とのこと。
●日本の軍人さんのコート
日本軍コート

陸軍・海軍でデザインは異なります。販売価格は1万~3万円くらい。作中で友人は「すごく安く買った」と言っていたので、6000円くらいのメルカリプライスで入手したのかもです。
● 鴨川散歩で見た山の稜線

作中で遠くに見えていたのは、鞍馬山(くらまやま)と思われます。標高584m。牛若丸が修行した山で知られています。
【4軒目】アルペン珈琲店
京都大学の北門側にある長テーブルの喫茶店、「アルペン珈琲店」がモデルと思われます。

アルペンは「アルプス山脈の」という意味なので、山の怪談をするのにちょうど良い店名です。
創業は1959年。店内にインテリな空気感が漂う、京大関係者が愛用する喫茶店です。
店内の額に飾られているのは旧第三高等学校寮歌の逍遥の歌「紅もゆる」です。
1950年に旧制第三高等学校は京都大学と統合。「逍遙の歌(紅もゆる)」は京都大学の学生歌として受け継がれ、今でも卒業式や各種行事で歌われています。
【5軒目】六曜社 珈琲店
「にぎやかな河原町通りの地下もあるカフェ」で該当したのは、「六曜社 珈琲店」。(→googlemap)
1950年に地下の店舗として始まって、1966年に1階を加えて現在の姿に改装。壁を彩るタイルは深緑の色むらが美しい清水焼製で、今では再現が難しい貴重なものだそうです。
気になった部分を深掘りしてみた⑤
●90万8750歩は実際何kmなのか
1歩を一般的な大人の平均的な歩幅(約70cm)で計算すると、90万8750歩は約636.1km。東海道新幹線の東京駅~新大阪駅間の路線距離は約515km。
●「908750」に何か意味があるのか
数字の象徴的な意味を無理やり当てはめてみると、
9 = 完成、終わり、神聖
0 = 無、起源、永遠
8 = 再生、復活、無限(横にすると∞)
7 = 神秘、霊性、完全
5 = 人間、感覚
0 = 再び「無」
順に考えると、「完成 → 無 → 再生 → 神秘 → 人間 → 無」となり、人間が亡くなって再び神秘的な存在として天へ昇る流れを象徴しているという解釈もいけそうです。

かなり無理やりな感じですが。
●地上から630kmはどんな高さなのか
地球の表面から見て高度630kmは、国際宇宙ステーション(ISS、約400~420km)よりも上で、気象衛星や偵察衛星が飛んでいるあたりの宇宙空間の静かな領域。宇宙ステーションの向こうにある「目には見えない天の領域」といえる。
引き続き第二章も特定していきたいと思います
読み進めてストーリーを楽しみ、いったん戻って作中のお店を探して発見し、またいったん戻って作中のエピソードを深掘りする。
店内写真などを見ながら読むと、作中世界の喫茶店に居合わせて話が耳に入ってくるような感覚になってきて面白いです。
引き続き、第2章以降も特定と考察をしながら楽しんでいこうとおもいます。
珈琲怪談
恩田 陸 (著)

第2章の続きはこちらです。